新橋で「ベルカ、吠えないのか?」購入。
20世紀を俯瞰するイヌ小説。この人の著作を読むのは
はじめてなのだが、淡々とした記述が良い感じ。

 私は淡々とした記述をする作家が好きらしい。というか、
思い入れ、情感たっぷりな記述が苦手なんでしょう。

ベルカ、吠えないのか?

ベルカ、吠えないのか?


 そういえば、せんだって西伊豆に行った帰りに渋滞にはまった。高速道路も国道も
詰まっており、延々と微速前進で横浜にむかったのだ。
 その時、なんとなくFMラジオを聞いていたのだが、流れてきたのは朗読ドラマ
(というんですかね?女性アナウンサーが文章を朗読し、合間にピアノという構成)
だった。その内容がとてつもなく下らなかった。あまりに下らないので、その下らなさ
を楽しんでしまえる程である。

 あらすじは、

・ある中年カメラマン、どっかに桜を撮影に行く。
・そこで女性と出会う。
・同じ宿に泊まる。
・一緒に酒飲む。
・女性に誘われ、事に及ぶ。
・翌朝、女性は既にいない。宿の支払いは女性が済ませた。
・残されたメモによると、その女性は未亡人であり、亡夫の遺言は
 「さっさと良い男を見つけて再婚せよ」であった。
・女性はそういわれても踏ん切りつかず、ウロウロしていた。
・しかし桜を撮影してた中年カメラマンを発見し、「こいつが良いや」と判断。
・残されたメモには女性の連絡先も書いてあった。
・中年カメラマン、「ああそうか」と納得し、孤独に生きてきた自分の半生を
 振り返る。そして、「こんなに1人きりで生きてきたんだから、そろそろ伴侶
 を持つのもいいなあ」と思う。

 あらすじは以上。
 なんだよこの中年男の阿呆な妄想を書き連ねたような内容は。ストーリーも紋切り型
ならば、各部の表現も手垢まみれの文言に終始。どうでも良いピアノ演奏も紋切り型
感を際だたせていた。
 なんとも醜いのは、ラスト部分である。これが、「翌朝起きたら女性はいない、連絡先
も分からない。行きずりの恋だったなあ」であれば、まあこれだって大いに紋切り型では
あるが、百歩譲ってよしとしよう。
 ところがこの話しでは、連絡先も分かっちゃうし、後日、また合おうとする男性の意向も
明らかにされちゃうのである。寂寥感もなんもない。ただ単に「旅先で出会った女性と
いい仲になったYO!(^_^)」って話ではないですか。妄想にも程がある!


 誰だこんな下らない話を書いた馬鹿は!どうせ渡辺淳一とかいう妄想助平オヤジかその亜流だろ。
出てこい!と思ったところ、アナウンサーがスタッフを紹介する。

「…原作、石田衣良…」


…こいつか。こいつだったのか。
うん、もういいや。退屈な渋滞中の時間をツッコミ所満載の小咄で盛り上げてくれて有り難う。
お陰で眠気が覚めたよ。一生、この手の話を書いてろ。

 しかしまあ、なんでこんな作家が受けてるのかね。不思議不思議。