バビロニア・ウェーブ

バビロニア・ウェーブ

「銀河面を垂直に貫く、直径1200万キロ、全長5380光年に及ぶレーザー光束---
バビロニア・ウェーブ。いて座α方向、太陽系から3光日の距離に発見されたこの光束が、
いつから、なぜ存在するのかはわからない。ただ、そこに反射鏡を45度角で差し入れれば
人類は膨大なエネルギーを手に入れられる。この想像を超えた光束の傍らに、送電基地が
建造された。

基地との連絡船運航にあたっていた操縦士マキタは、あるとき緊急事態発生の報を受け、
一人の重要人物と謎の積荷とを運ぶよう命じられた。だが到着した基地には誰の姿も無い。
そしてここでは極秘裏にある計画が進行していたのだ。

日本ハードSFを代表する傑作。星雲賞受賞。」



この小説は、バビロニア・ウェーブ含め、様々な物体のスケール感の描写が圧巻です。


「もう一度、この基地にいるメンバーだけで、バビロニア・ウェーブに関しての認識を確かめて
おく必要がありそうです」


ランドール教授は、端末機器の操作卓に手を伸ばした。


会議室の中空、ランドール教授の席の前に、青みがかった、1メートルに満たない薄い円盤が
映像として浮かび上がった。


「この円盤を太陽系空間の縮小モデルと考えていただきたい。海王星の軌道が描く円盤---直径60
天文単位、つまり直径約90億キロの空間を10兆分の一に縮小すれば、このくらいの大きさになります」


(中略)


「ちなみに…」


青みがかった円盤の中心部に輝点が浮かんだ。円盤の中心を示す指標のように、白い輝点がポツンと
打たれたような印象だった。


「太陽の直径は0.2ミリ以下---完全な点光源です」


教授は会議室を囲む五人の顔を見回した。


「ところで、われわれの位置は、太陽から3光日離れているので、そのあたりに相当します」


マキタの席のすぐ前に、細い輝線が一本、上下に張り渡されるように投影された。オレンジに着色
されたレーザー光線は、まさに縮小されたバビロニア・ウェーブといってよいものだった。
だが、10兆分の1に縮小されたビームは、ごく細い糸としか見えず、手を伸ばせば簡単に断ち切れ
そうな印象だった。
とてもその細糸から放射されるエネルギーが、四メートル向こうの青白い円盤の中にひしめく人類の
活動を支えているとは信じがたかった。細い輝線の両端は床と天井を貫いて消えていた。


「直径1.2ミリ---フィラメント糸を張ったような太さになります。ついでながら、この縮尺では、
われわれの基地はボーア半径以下になってしまうので、輝点としても投影することはできません」


(中略)


バビロニア・ウェーブの全長は5380光年あるので、この縮尺では、5100キロメートル---つまり、
この糸が上下に2500キロ以上延びていることになります。」

…このように登場人物が親切に説明してくれるので、バビロニア・ウェーブの巨大さがたいへんよく
理解できるんですな。


(1ミリメートルだいたい18897267分の1が、ボーア半径の長さに当たるそうです)


さて、この小説の面白さについては多くの人が言及しているので、重箱の隅をつつくような事を。
裏表紙の「あらすじ」では、バビロニア・ウェーブの直径が「1200キロ」となっています。
これは当然「1200万キロ」の間違いなのでした。あまりのスケール感に東京創元社の担当者も
間違えてしまったのか?