10月15日に関する記述

 紋別の宿で目覚める。朝食は昨夜の居酒屋で作ってもらっておいた握り飯だ。うん、美味い。
さて、紋別に来たのは他でもない、この地にあるという「オホーツクとっかりセンター」を見学
するためである。「とっかり」とはアザラシを指す方言であり、センターには多数のとっかりが
ひしめいていると聞く。
 この「とっかりセンター」見学は、今回の旅行の中でも極めて重要な目的の一つである。

 オホーツク海に面したセンターの敷地に向かう。ここは流氷科学センターだの流氷観光船
ガリンコ号の発着地だの、人工砂浜があったりといった、まあ色んなものが固まってる一帯だ。

 ここで我らはまず、ガリンコ1号を見る。現在は2号が就航しているため、老朽化した1号は
陸上展示されている。ドリル部は直線的な円錐形ではなく、膨らみをもった大根のような形状。
流氷で覆われた海上をただ「前進」するのではなく、「割り開く」ために、こうしたデザインに
なっているのだろう。

 ええっと、そんでもって本命の「とっかりセンター」へ。
なんというか、予想以上に簡素な施設である。入口のアーチもなにやら混乱した表記。
 しかし施設内に入った我々は、とっかりの愛らしさに腰を抜かしそうになった。

 まずもって、鳴き声がよい。哀愁をおびた「うー、うー、」という声が、折からの強風に
乗ってオホーツクに消えてゆく。
 そして黒目がちな濡れた眼!不器用な陸上移動!飼育係のお姉さんに甘える仕草!全てがかわいい!
よく、「モー娘。って可愛いよね!」と聞くが、とっかりのかわいさの前にはモー娘。などハナクソ以下だ。格が違う。

 さて給餌タイムには、我ら一般人もとっかり様に間近に接近できる。もちろんゲートで手を消毒し、
諸注意をうけた上で、だ。
我らの前にあらわれたのは、アゴヒゲアザラシの「ノンちゃん」である。飼育係のお姉さんに
よく従い、仰向けで手をパチパチさせる芸当もお上手。妻さんはノンちゃんに触れたりキスして
もらったりと楽しんでいた。私も体表に触れてみたが、ウェットスーツみたいだな。

 この「とっかりセンター」は紋別市の施設である。とっかりを観光客に見せるという目的もあるが、
漁網にかかったり、怪我したとっかりを保護・治療し海に帰すという使命もある。が、こうした施設を
設けて、また職員を雇って収支が合うのかは疑問だ。緊縮財政の折、真っ先に閉鎖されかねない施設
であろう(と勝手に推測。根拠無し)。しかし来訪者が子細にアンケートに回答し、それが蓄積され
れば、「とっかりセンター」が存在理由を主張する際の根拠ともなりうるだろう。
 というわけで、結構真面目にアンケート記入したのだが、最後に力尽きた。最後の「今日の感想
をどうぞ」という質問に対する私の記入は、

 「とても、べん強になりました。」(ママ)

 であった。今日び小学生だってもうちょっと気の利いたこと書くよ。しかも「勉強」の「勉」が
平仮名だし。

 そんなこんなで、骨抜き状態で「とっかりセンター」を出た我ら。コーヒーを飲んで正気を取りもどし、
札幌に向かった。今回の行程全体を見ても、紋別は地理的に突出したポイントだ。これはすなわち、我らが
こうした労力を払ってでも「とっかりセンター」に行きたかったことを如実に物語っている。そして、その
労力を購ってあまりある喜びがあった。
…マイケルジャクソンは、その財力によって自分にとっての楽園「ネバーランド」を築いた。もし私に
彼なみの財力があったれば、私は迷わずに「とっかりランド」を築くだろう。

 …札幌を目指す我々を、例によって危機的な空腹感が襲った。なんか喰いたい!この際なんでもいい。
立ち寄った道の駅には飲食施設は無かったが、地元の特産品である「アンガス牛」の加工品があった。
そのコンビーフなどを摂取しつつ走行を続け、ドライブインの食事までをしのいだ。

 で、札幌に早く着きたいがために道央自動車道を利用。雪虫がフロントガラスに次々に当たる。